1. はじめに

事務手続きQAでは、関連条項を見つけても、本人と代理、適用条件、規程版を誤ると書類の取り寄せ直しや期限超過につながります。これが本記事の背景です。

目的は、第1回の意味の設計と第2回の検索を、実装できる責務・データ・APIへつなぐことです。「どの誤りを、どこで防ぎ、何で確かめるか」を示します。各回へのリンクは末尾にまとめました。

比較対象をベクトル検索だけに固定しません。たとえばAzure AI Searchは、全文・ベクトル検索、フィルター、semantic rankingを組み合わせられます。[^hybrid-search] こうした強い検索を出発点とし、特定製品を必須にしません。

残る誤り改善する箇所
正しい版の条項を回収できない検索・索引・分割
条項間の条件・添付・参照を間違えるオントロジーと根拠グラフ
根拠は正しいが結論を間違える決定表、計算関数、出力検証

2. 教材規程と、QAが扱う責任範囲を固定する

2.1 共通の架空規程

規程は次の範囲です。以降のID・条項ラベル・登録時刻は本記事の説明用で、規程への追加条件ではありません。

項目教材の規則
住所変更届住居が変わった場合に必要
通勤経路変更申請通勤経路が変わる場合だけ必要。転居の事実から経路変更を推定しない
申請主体本人申請と代理申請を区別し、代理申請では委任状も必要
旧規程v1転居日が2026-09-30以前なら適用。転居日の翌日から14暦日以内
新規程v2転居日が2026-10-01以後なら適用。転居日の翌日から10暦日以内
日付の具体例転居日2026-10-01の期限は2026-10-11
情報不足経路変更の有無、申請主体、転居日が不明なら、必要な項目を追加質問
アクセス権限のない情報は、内容だけでなく存在も漏らさない

営業日への繰り延べや地域独自の添付などは追加しません。実務で必要なら、業務責任者が別の明示条件として定義します。

2.2 事務手続きの難しさを設計要件へ変える

以下は事務一般の実測結果ではなく、導入対象の確認項目と設計要件です。

似た名称・略称は別名として管理し、手続きIDを誤統合しません。属性の組合せはAND/OR/NOTを明示し、例外・但書と参照条項の適用範囲を出典へ結び付けます。

所管・組織・地域差は検索と判定の両方で制限します。添付の必要性を表すrequiresDocumentと、手順の前後を表すprecedesは別の関係です。

期限では業務日とシステム時刻を分け、権限・個人情報は検索前から保護します。不明・矛盾を断言で埋める損失を避けるため、質問・停止・有人確認も正常な結果にします。

2.3 案内・適否判定・実行を分離する

制度上の案内は、承認済み規程と申告条件に基づく説明です。個別の適否判定は、本人性や証拠書類を確認した判断、申請トランザクションの実行は業務システムへの登録・更新です。

本記事の対象は案内だけです。LLMに決裁・申請をさせません。判定や実行を追加するなら、専用API、実行権限、利用者の明示確認、二重登録防止、実行記録を別途設計します。

委任状は必要書類であって認可トークンではありません。「代理です」という申告から他人の情報を読む権限を付与してはいけません。

3. 意味・根拠・判定・生成を分ける

3.1 最小構成は4つの責務

事務手続きQAのオントロジー、業務承認、根拠グラフ、条件判定、LLMの責務を分離した構成図

図1の上段は公開前、下段は回答時です。承認済み根拠と判定結果だけを説明します。

意味・型はオントロジー、版・出典付きの主張はグラフ、適用判定と期限は決定表・計算器、説明はLLMが担当します。業務承認、規程の上書き、例外の補完、ACLの決定をLLMへ任せません。

オントロジーは共通語彙と関係の合意です。OWLではクラス・プロパティ・個体などで知識を記述できます。[^owl-primer] ただし採用は必須ではなく、RDBの型・外部キーやJSONスキーマでも始められます。

Microsoft GraphRAGは、知識グラフの抽出やコミュニティの階層・要約を検索に利用します。[^graphrag-overview] 本記事の承認、時点管理、認可、決定表、証拠パックは提案アプリの設計であり、Microsoft GraphRAGの標準装備として紹介するものではありません。

3.2 オープンワールドと入力検証は別物

OWLのオープンワールドでは、未記載の事実を偽とは扱いません。[^owl-primer] 教材でもrouteChangedの欠落を「経路変更なし」には変換しません。

一方、業務APIには「期限案内には転居日が必要」という検証が必要です。これは操作の完了に必要な入力と根拠の契約です。

SHACLはRDFのデータグラフを条件に対して検証する言語で、件数制約やデータ型を記述できます。[^shacl] 公開するルールの根拠の有無や日付型の検査に使えても、「10日が業務上正しい」と承認するものではありません。

OWL推論に集約せず、構造検証・不足確認・決定表を分けます。推論する場合も前提とルール版を追跡します。

4. 版・根拠・時点をデータモデルへ埋め込む

4.1 関係そのものを、根拠のある主張にする

「住所変更届 → 期限 → 10日」というエッジだけでは、適用時点と出典が消えます。次の要素を区別します。

要素役割と例
ProcedureProcedureVersion手続きの概念と制度上の版
RuleCondition規則と、転居日・経路・申請主体などの条件
Assertion主語・関係・目的語を持つ、IDと根拠付きの主張
DocVersionSection原文の版と、条項・表・但書の位置
Evidence根拠の原文範囲、sourceHash、条項ID
validFromvalidTo業務上の適用期間
recordedAtシステムへの記録時刻
approvalauthority承認状態・記録と、所管・責任主体
tenantACL組織の分離と閲覧条件
Snapshot公開したノード・関係・原文・索引の版の集合

関係の始点・終点も型で制約します。hasRuleは手続き版からルール、supportedByは主張から根拠、locatedInは根拠から原文条項へ進みます。添付を要するrequiresDocumentと、単なるmentionsは別物です。

以下は主張を表す独自スキーマで、製品設定ではありません。参照先のdeadline-v2には住居変更という条件、翌日起算・10暦日を保持します。原文・ハッシュ・承認記録も参照先に保存し、validTo: nullは終了日未定とします。

json
{
  "id": "a-deadline-v2",
  "snapshotId": "relocation-s2",
  "subject": "address-change-v2",
  "relationship": "hasRule",
  "object": "deadline-v2",
  "validFrom": "2026-10-01",
  "validTo": null,
  "recordedAt": "2026-09-03T09:00:00+09:00",
  "evidence": {
    "id": "ev-deadline-v2",
    "docVersion": "relocation-v2",
    "section": "s-deadline"
  },
  "approval": { "status": "approved", "recordId": "approval-s2" },
  "authority": "training-policy-owner",
  "acl": { "tenant": "training", "readScope": "relocation-guidance" }
}

参照先のルール・根拠・原文版にも、適用期間、公開集合、承認、ACLの対応が必要です。approvedはLLMではなく承認サービスが実際の記録に基づき設定します。

PROV-OはEntity、Activity、AgentやwasDerivedFromで由来・導出を表せます。[^prov-o] 原本・抽出候補をEntity、抽出・承認をActivity、責任主体をAgentに対応付けられますが、真正性や承認を保証する仕組みではありません。

4.2 業務日付とシステム時刻を混ぜない

適用期間は開始日を含み終了日を含まない区間で表します。v1のvalidToとv2のvalidFromは、ともに2026-10-01です。9月30日を落とさず、境界も重複させません。

公開日は周知の時点、施行・失効は業務上の効力、取込・登録はシステムが知った時刻、回答時刻は案内した時刻です。いずれも、この教材での版選択に使う転居日の代わりにはしません。

9月にv2を登録しても、9月30日の転居にはv1の14暦日を使います。回答が10月2日でも同じです。実務で申請日・受付日が基準なら、規程に従い基準項目を変えます。

recordedAtだけでは履歴再現には不十分です。訂正前を上書きせず、記録版の有効区間や置換関係、回答時のスナップショットを残します。「当時知っていた内容の再現」と「今の承認済み知識で過去の出来事を案内すること」を区別します。

過去再現は誤案内の継続ではありません。現在の案内は訂正し、監査記録とは分けます。過去に読めた人でも履歴アクセスを現在の権限で再評価します。

4.3 スナップショットは版番号の一致以上のもの

ルールだけをv2で絞っても、添付のエッジはv1、引用PDFは差し替え済み、要約は未承認、という混在は残ります。

公開マニフェストに手続き版、全主張・関係、条件表、原文、索引・要約の版を列挙します。回答時には根拠集合全体が同じ公開集合に属し、転居日に適用でき、承認済みで、現在の利用者に許可されることを確認します。

別紙の版も明示し、探索途中で「最新」へ切り替えません。回答中の索引更新では固定集合を維持するか処理をやり直し、権限取消しは出力直前にも反映します。

5. 取り込みは「抽出」と「公開」を分ける

5.1 原文を取り戻せる単位で保存する

分割前に原本、文書版、ページ、条項、表と但書の対応を保存します。OCR文字列から原画像の位置へ戻れるようにし、sourceHashは原本バイト列から計算します。変換後テキストのハッシュとは別です。

工程残すもの公開を止める例
原本登録原本、版ID、ハッシュ、公開・適用情報出所不明、同じ版IDで内容が変化
OCR・分割ページ座標、条項、表の構造、但書との対応「10」と「14」、否定語、日付の読み取りが不確か
LLM抽出候補の主語・関係・条件・原文範囲原文に戻れない、条件の係り先が不明
名寄せ・構造検査別名、ID対応、型、参照の検査結果別手続きの誤統合、重複主張の食い違い
業務承認優先順位、矛盾の解消、承認記録原文・別紙・説明資料のどれを優先するか未確定
公開固定した根拠集合と検索用の索引根拠・条件表・索引の版が不整合

但書は、どの行・列にかかるか、どの条項を参照するかまで残します。期限、否定、例外、対象者はOCRスコアだけで承認せず、原文・原画像と照合します。

5.2 LLMの抽出結果は未承認候補

LLMが「転居なら経路も変更」という関係を抽出しても、教材には根拠がないため却下します。抽出結果は未承認候補です。

未記載はunknownとし、未抽出をfalseにしません。似た名前も所管・範囲・版・条件を確認するまで統合せず、重複候補を調査します。未解決の重複、誤統合、矛盾は公開を止めます。

文書間の優先順位は業務責任者が承認します。「新しいFAQだから規程に勝つ」と推測せず、正本同士の矛盾は検索順位で解消しません。

候補は回答用グラフ・索引から分離し、公開サービスが承認記録を確認して採用します。「未承認」の表示だけでは要約へ混入できます。抽出物を承認済み規程の代用にしません。

6. 条件と期限を、決定的に処理する

6.1 「不明」と「該当しない」を別の結果にする

真偽値にはtruefalseunknownを使い、矛盾は評価前に別状態で返します。これは本アプリの約束で、OWLやDMN全体の評価仕様を置き換えるものではありません。

ANDは全条件、ORはいずれか、NOTは否定です。NOT unknownは真ではなく、true AND unknownも不明です。括弧を含む演算木と評価項目を保存します。

書類ごとに独立して決定し、「一つ必要なら全部必要」と集約しません。

決定する項目確認済みの条件判定
住所変更届住居が変わった必要
通勤経路変更申請経路が変わった必要
通勤経路変更申請経路が変わっていないこの変更に関しては不要
委任状代理申請必要
委任状本人申請代理用としては不要
各項目その決定に必要な条件が不明条件を質問してから決める

決定モデルの標準にOMG DMNがあります。参照版を1.5に固定します。決定表のhit policyは複数行の一致の扱いを定め、Uniqueではルールが相互に排他的です。[^dmn-spec]

上表全体をUniqueにしてはいけません。住所変更届と委任状は同時に必要になり得るため、出力ごとに分けます。版選択など一意な判定の多重一致はエラーとし、不明・対象外も実装の評価仕様に合わせて明示します。

実務の例外・但書は優先順位も承認対象です。教材に例外を追加するのではありません。「先に見つかった行を採用」では取り込み順が規則になります。

6.2 期限は日付型で計算する

次は教材の暦日期限だけを計算するPython 3.10以降・標準ライブラリの実行例です。確定日を入力し、不正な形式・日付は例外で返します。実装時は承認済みルール版から条件を読み込みます。

python
import re
from datetime import date, timedelta


def deadline_for(move_date_text: str) -> tuple[str, date]:
    if not re.fullmatch(r"[0-9]{4}-[0-9]{2}-[0-9]{2}", move_date_text):
        raise ValueError("転居日はYYYY-MM-DD形式で指定してください")
    move_date = date.fromisoformat(move_date_text)
    if move_date < date(2026, 10, 1):
        version, days = "v1", 14
    else:
        version, days = "v2", 10
    return version, move_date + timedelta(days=days)


assert deadline_for("2026-09-30") == ("v1", date(2026, 10, 14))
assert deadline_for("2026-10-01") == ("v2", date(2026, 10, 11))
version, due = deadline_for("2026-10-01")
print(version, due.isoformat())

出力はv2 2026-10-11です。翌日の10月2日を1日目と数え、10日目が11日です。転居日へ10日を加えた上で、さらに1日を加算しません。

初日の算入、暦日/営業日、タイムゾーン、休日カレンダー版、例外を契約にします。教材は日付型なので時刻変換は不要です。時刻入力なら業務タイムゾーンで日付を確定し、UTC日付に無断で置き換えません。

営業日計算には承認された休日カレンダーと繰り延べ規則を使います。教材は暦日なので、休日を理由に10月11日をずらしません。未定義の締切時刻や遅延時の扱いも作り足しません。

7. 認可された検索から、証拠付き回答までをつなぐ

7.1 不足確認と停止を、通常の分岐として持つ

事務手続きQAで不足条件を質問し、根拠と権限の整合後に案内し、不許可や矛盾では停止する判断フロー

図2では不足条件を利用者へ、制度側の矛盾を業務窓口へ戻します。権限外では文書名・件数・存在を示さない共通応答を返します。

入口で認証を確認し、質問から意図・項目を抽出して不足を聞きます。検索前に、外部の認証・認可基盤から利用者・tenant・scopeを受け取り、対象日と制度を確定します。

質問は出力項目の依存関係から選びます。教材では転居日・経路変更・申請主体が分かればよく、住所そのものや氏名・社員番号をLLMへ渡す必要はありません。

認可前の質問は共通項目に限ります。非公開制度の項目名を示さず、制度固有の追加質問も認可された範囲で作ります。

7.2 typed APIで探索の境界を固定する

任意のSQL・Cypher・SPARQLやACLをモデルに作らせず、手続きID、条件型、関係、探索予算を限定するtyped APIを置きます。tenantと認可文脈はサーバーが注入します。

次の疑似コードは独自APIの責務を示し、Microsoft GraphRAGのAPI名ではありません。

text
guide(question, session):
  identity = auth.verify(session)
  history = loadCurrentAllowedUserFacts(identity, session.conversationId)
  intent, facts = extractTypedFacts(question, history)
  if conflict(facts): return clarify(facts)
  if missing(facts, intent): return askMinimum(facts, intent)
  ctx = auth.authorize(identity, intent, facts.targetDate)
  if denied(ctx): return nonDisclosingResponse()
  snap = pinApproved(ctx, facts.targetDate)
  hits = search.hybrid(ctx, snap, rewrite(intent, facts))
  paths = graph.follow(ctx, snap, hits, allowedTypes, budget)
  sources = originalSections(ctx, snap, paths)
  if not completeAndConsistent(sources, facts): return humanReview(ctx)
  result = evaluateRules(snap, facts, sources)
  pack = evidencePack(ctx, snap, facts, result, sources)
  text = llm.explain(pack)
  return checkedOutput(text, pack, auth.current(identity))

checkedOutputでは権限喪失なら非開示応答、不整合なら生成文を破棄します。根拠と権限を再確認できるときだけ固定文で案内し、失敗の種別を記録します。

query rewrite、hybrid検索、reranker、グラフ探索、追加検索、要約、キャッシュ、引用取得の全経路に同じ認可を適用します。ノードだけでなくエッジ・参照先・原文も制限し、モデルへ渡す前と出力直前に確認します。

関係は許可リストにし、各決定の必須根拠リストで回収漏れを検出します。探索上限で足りなければ不足とし、「検索で出なかったから不要」とは判定しません。

取得文書は情報であり命令ではありません。原文中の不正な指示にも、プロンプトだけでなくAPIの認可・操作制限で対処します。

7.3 LLMへ渡す証拠パック

証拠パックは、確定入力と由来、採用規程とスナップショット、判定・計算、原文範囲と引用ID、未確定項目、案内だけの制約をまとめた構造です。

生成後は書類、不要の理由、日付、規程版、申請主体を照合します。引用IDの実在だけでなく、該当条項がその結論を支えるかを検査します。重要項目は固定文にして、LLMに接続文だけを任せる方法もあります。

不採用理由も、開示可能なものだけをモデルへ渡します。権限で除外したID・題名・件数を送ると存在が漏れます。最後に回答だけをマスクする構成は避けます。

7.4 派生要約・会話履歴・キャッシュも同じ境界に置く

派生要約には全構成根拠の版と権限条件を引き継ぎます。一部の原文が読めるだけで全体要約を許可せず、権限範囲ごとに作るか、許可された根拠だけで再生成します。

キャッシュキーにはtenant、認可scopeとポリシー世代、スナップショット・ルール版、確定属性、基準日を含めます。必要なら休日カレンダー、プロンプト・出力スキーマの版も加え、質問文だけでは共有しません。

権限取消しや規程訂正時は無効化し、再認可します。キーにも生の個人情報を埋めず、必要属性だけを保護して保持します。

会話履歴も例外ではありません。再利用するのは利用者が確認した必要属性に限定し、利用者ID・tenant・会話IDに紐付け、現在もその項目を利用できるか照合します。別の利用者やtenantへ持ち越さず、属性の変更や矛盾があれば再確認します。疑似コードのloadCurrentAllowedUserFactsがこの責務を担います。

過去の回答・引用・会話要約を、そのまま次ターンの根拠やquery rewrite用の入力へ再投入しません。毎ターン、現在の権限と承認済みスナップショットで原文を取り直し、証拠パックを再構築します。要約を使う場合も、再利用可能な利用者属性だけから作り、以前の規程説明や失権情報を混ぜません。訂正・権限取消し後は以前のモデル入力も流用せず、新しい許可済み文脈に置き換えます。

トレースは相関ID、処理段階、版、判断項目、採否理由、計算器、エラー種別へ最小化します。個人情報を含む詳細は別のアクセス制御下へ置き、保持期間と削除責任を決めます。

8. 一つの相談を、根拠と最終回答まで通す

8.1 最初に聞き返すこと

以下は、2026-10-02に相談を受ける架空の会話例です。相談者には教材規程の閲覧権限があるものとします。

利用者: 引っ越しました。会社には何を、いつまでに出せばよいですか。

住居変更は分かりますが、転居日・経路変更・申請主体は不明です。経路変更を推定しません。

QA: ご案内に必要な点を教えてください。転居日はいつですか。通勤経路は変わりましたか。申請はご本人が行いますか、それとも代理の方が行いますか。住所そのものの入力は不要です。

利用者: 2026年10月1日です。通勤経路は変わりません。自分で申請します。

条件は住居変更あり、転居日2026-10-01、経路変更なし、本人です。「昨日」などの相対日付は会話の基準日・タイムゾーンで候補を作り、期限に影響するため確認します。

8.2 何を採用し、何を除外するか

原文位置には説明用のs-addresss-routes-agents-deadlineを付け、画面から原文へリンクします。

候補採否・理由根拠
v2の住所条項採用:住居変更ありs-address
v2の経路条項採用:経路変更なしs-route
v2の代理条項採用:本人申請s-agent
v2の期限条項採用:10月1日以後s-deadline
v1の14暦日除外:適用期間外旧版の期限条項
転居→経路変更の候補除外:根拠なし・未承認なし

「申請不要」は検索で見つからないからではなく、条項と「経路変更なし」からの判定です。v1も古そうだからではなく、適用期間外だから除外します。

未承認候補は診断例であり回答へ渡しません。診断記録も権限で保護します。

8.3 最終回答は、結論・条件・根拠を近づける

QAの回答例

ご申告の「2026年10月1日に転居・通勤経路は変更なし・本人申請」という条件では、住所変更届が必要です。〔教材v2:住所条項〕

通勤経路は変わっていないため、通勤経路変更申請は不要です。本人申請なので、代理申請用の委任状は不要です。〔教材v2:経路条項・代理条項〕

転居日が2026年10月1日以後なのでv2を適用します。翌日の10月2日から10暦日を数え、期限は2026年10月11日です。〔教材v2:期限条項〕

これは教材規程に基づく制度上の案内です。書類の提出や申請の承認は行っていません。

引用ラベルは架空教材内の表記です。実装では証拠パックの原文範囲へ結び付け、申告条件と規程から結論を追えるようにします。

8.4 分からないときの返答も設計する

条件不足には「期限を決めるため、転居日を教えてください」、発言の食い違いには「正しい転居日を確認させてください」と返します。

制度側の根拠不足・矛盾には「確実に案内できる根拠がそろいません。担当窓口で確認してください」と返し、利用者へ同じ質問を繰り返しません。

権限外では「この窓口ではご案内できません。利用可能な窓口をご確認ください」と返します。「特別規程はあるが読めない」と存在を示す返答もしません。

モデルの自信ではなく、必須項目、ルールの一意性、原文、現在の権限、重要項目の整合で分岐します。

9. 段階導入と、誤りに対応する検証

9.1 グラフが必要かを、強い比較対象で判断する

教材規模ならRDB・決定表・定型回答で十分です。文書が多くても根拠が局所的ならhybrid検索+版・権限フィルター+rerankerから始めます。条件・例外・添付の多段参照でつなぎ漏れが残る場合に、グラフの保守費用を払う価値を測ります。

原本・版の整理、強い検索、条件の構造化、承認付き関係探索、生成の順に広げます。一つの手続きから有人回答と並行比較し、止めるべきケースで止まれるかを先に確かめます。

9.2 設計を検証可能な仮説へ変える

設計減らしたい誤り検証方法
手続きIDと型付き関係似た申請名の誤統合別名・似た名称を入れ替えた対照ケース
不明を保持して質問経路や代理の勝手な補完同じ質問から一項目ずつ情報を落とす
版と根拠集合の固定v2の結論にv1の引用が混じるエッジ・原文・要約だけを旧版にした検出ケース
決定表と日付計算AND/OR/NOT、起算日の誤り条件の組合せ、9月30日と10月1日の境界
全経路の認可追加検索・引用・要約からの漏えいtenant違い、権限取消し、派生物とキャッシュの確認
会話履歴の再利用制限失権情報・訂正前規程の再混入同一会話中の権限取消し・規程訂正、tenantの切替
重要項目と引用の照合正しい根拠から誤った文章を作る書類名・日付・引用先の意図的な取り違え
明示的な停止状態不足や矛盾を断言で埋める根拠なし、衝突、検索上限、生成失敗を注入

改善率は未測定です。同じ質問・権限・規程版で強いRAGと比較し、誤り、確認往復、費用を測ります。

9.3 運用責任を決めてから広げる

業務責任者は意味・優先順位・正答を承認し、知識管理担当は原本と版、認可担当は権限、開発担当は探索・判定・生成の境界を維持します。公開停止と訂正案内の責任者も決めます。

NIST AI RMF 1.0は、GOVERN・MAP・MEASURE・MANAGEでAIリスク管理を整理する任意利用の枠組みです。[^nist-rmf] 責任・損失・測定・対応の整理に使えても、QAの精度向上や認証取得の証明ではありません。

改訂では条件表、エッジ、要約、キャッシュ、評価への影響も調べ、承認した公開集合へ切り替えます。過去の監査記録を保ち、現在の案内は訂正します。評価指標、回帰ケース、変更時の切替・復旧は第4回で詳しく扱います。

10. まとめ

意味・根拠・条件判定・言語化を分離し、根拠集合の版・適用日・権限をそろえます。教材では経路変更と申請主体を確認し、転居日2026-10-01ならv2、期限は2026-10-11です。

強いhybrid検索やRDBから始め、残る誤りに関係探索を追加します。質問・停止・有人確認も、誤案内を防ぐ正常な結果として実装します。

11. 参考情報

[^hybrid-search]: Hybrid search using vectors and full-text search in Azure AI Search — Microsoft Learn(確認日: 2026-09-05)

[^owl-primer]: OWL 2 Web Ontology Language Primer (Second Edition) — W3C(確認日: 2026-09-05)

[^graphrag-overview]: Welcome to GraphRAG — Microsoft(確認日: 2026-09-05)

[^shacl]: Shapes Constraint Language (SHACL) — W3C(確認日: 2026-09-05)

[^prov-o]: PROV-O: The PROV Ontology — W3C(確認日: 2026-09-05)

[^dmn-spec]: Decision Model and Notation — Object Management Group(確認日: 2026-09-05)

[^nist-rmf]: Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0) — NIST(確認日: 2026-09-05)